MEYASUBOX

記憶力と応用力を高める方法ーー科学が解き明かす【勉強の極意】

最終更新: 4月12日

効果的な記憶定着法について考えてみましょう。以前は、忘れる前にすぐ復習するか、定期的に見直すなど、このような方法が勧められていました。しかしこの機会に、少し視点を変えてみましょう。

従来の勉強法のアイデアは、同じタイミングで何度も繰り返し学習することが大切、という点です。ここで注目すべきは、この「繰り返し」が脳にとっては本質的には無意味という事実です。この観点から、従来の勉強法が効率的でないとされる理由が明らかになっています。

では、その理由について簡単に説明しましょう。

脳は物事を長期記憶として定着させるプロセスを持っています。この長期記憶の容量は、実際には無限大と形容されるほど潤沢です。

つまり、人間は多くの情報を覚える能力を持っており、限界まで情報を蓄積しても、新しい情報を覚えることには支障はないのです。

では、なぜ私たちは覚えたはずのことを忘れることがあるのでしょうか?

実際のところ、私たちは情報を忘れているわけではなく、思い出せないだけであることが多いです。

これは、記憶の手がかりと情報の繋がりが薄れてしまうためです。つまり、思い出せなくなるときは、脳がその情報を引き出すためのヒントが不足している状態なのです。

従来の繰り返し学習では、短期記憶を反復的に引き出すことになります。

しかし、この方法では情報は長期記憶に移行しにくく、短期記憶のままで使えない知識となってしまいます。

では、どうすれば良いのでしょうか。

一度情報を覚えた後、しばらく間をおくと、その情報は自然な流れで長期記憶に定着していきます。この過程では、手がかりや関連付けが重要な役割を果たします。そのため、情報を忘れないためには、情報と関連する手がかりを保持し続けることが大切です。

復習のタイミングも重要です。情報が長期記憶に移行しつつある段階で、手がかりが薄れる前に復習することが効果的です。具体的には、情報を思い出すための手がかりをもとに、復習を行うことがベストな方法です。

つまり、私たちが実践すべきアプローチは、長期記憶への移行が進んでいる情報を、手がかりを活用して思い出す苦痛に耐えることです。なかなか思い出せない内容を求めてあれこれするのは、精神的な苦痛になり得ますが、この苦痛こそが、情報の定着を強化し、忘れにくい知識を築いていく糧です。

勉強とは思い出す作業 (勉強=想起行為)

人間の脳は、困難な課題に取り組む過程で新しいニューロン同士の結びつきが形成されます。

要するに、難しい学習課題ほど効果的な学習が期待できるのです。

初めて学んだ情報を直ぐに復習することは、確かに容易です。

しかし、これには長期的な記憶の弱まりや応用力の欠如といったデメリットが潜んでいます。情報が容易に得られるため、時間が経てば忘れてしまう傾向があり、学習の深さも制限されます。

一方、情報が忘れかけたタイミングで想起することは、再統合と呼ばれる現象を引き起こします。これにより、以前の経験や知識との関連性が強化されます。このような関連性が深まることで、情報を思い出しやすくなり、知識を応用する力も向上します。

想起を通じて過去の経験との結びつきを強化すると、関連性が深まり、記憶力が向上するのです。

これらの理由から、学習においては想起課題 (思い出しまくること) に取り組むことが、より効果的な学習を促す道であると言えます。是非、参考にしてみてください。

ピーター・ブラウン, ヘンリー・ローディガー, マーク・マクダニエル 著ほか. 使える脳の鍛え方 : 成功する学習の科学, NTT出版, 2016.4. 978-4-7571-6066-8. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I027222162